マイグレーションしないリスク
一般的に IT の世界のソフトウエアは、ある年月が経過しますと新しい環境(データベース・クライアント OS・出力機器)では動作が保障されないケースは多々あります。この世界のみならず自動車や電化製品のような耐久消費財でも保証期間や部品の供給期間が限られているライフサイクルのあるものはすべて同じですが、全く使えないわけではありません。
なにせ快調に動いている現実を見ると、むしろ「良く動いてくれているよなあ…」と感心したり、感謝したり愛着まで湧いてくるから不思議です。モノとは言え、自分の人生を共に歩んでくれた歴史があるからです。ソフトウエアも新しい環境に適応できるように環境側がある程度の過去世代の仕様をうまく継承してくれていますが、新しい機能拡張や大多数の顧客が継続して利用されないモジュールや外部から継続提供されなくなった部品のせいで存続できない、むしろ邪魔になってしまう部品は廃棄されます。
そうなるとある日、突然不具合が頻発します。システムが起動すらしなくなることもあります。理由は、新しい環境ではうまく動作しないですよ…とソフトウエアからのメッセージですね。
しかし、「予期出来なかった…」「想定外の結果」とは言えないでしょう。ただしく、マイグレーションを施して新しい環境へ移行してテストした結果ではないからです。しかも、この障害の発生した原因も実は理解していたハズです。ここに、マイグレーションをしない大きなリスクと過失が潜んでいるのです。
稼働しているシステムは新しい環境の変化に対応するためマイグレーションすることが最重要なのです。
・使い続ける理由とは?
結論から言いますと極めてシンプルで「使い続ける価値がある」それだけです。ポジティブな理由もネガティブな理由も検討の中では山のようにあったことでしょう。混迷した後の折衷案だったかも知れません。しかしながら、真剣にコスト・人員・影響範囲…さまざまなテーマで検討した結果、「使い続ける価値あり」と判断したことには変わりません。そうであるならば、最低限の投資が必要となります。
・外部への責任
さて、一旦トラブル発生、動作不能、エラー多発…従前の環境に戻すなど幾多の対策を施す必要があります。これが企業内部、組織内部の範囲で済むのであれば人海戦術を一定期間行うことでも対処が可能です。しかし、例えば生産管理、購買管理など、外部特に取引先様への影響に加えてシームレスにシステム間連携をしている場合は甚大な損害に発展する可能性が高いです。連携先のシステムにも支障が及びます。これらは、信用失墜のみならず損害賠償の対象となります。復旧期間に比例して被害額が増えてしまいます。
・言い訳できない原因
事故や障害が起こった際に、被害者やIR情報公開としてどのような説明を行うのでしょうか?「謝罪」会見の席上にいることを思い浮かべてみて下さい。色々な事情を真摯に説明しても「要は、原因がわかっていながら放置したってことですよね」の一言でその後は沈黙するしかありません。
・時間との闘い
万が一を考えて従前の仮環境を用意しておく…「備えあれば憂いなし」
これが最も長期間に時間を稼げる方法です。幾つかのつなぎの業務は仕方がないので手作業や Excel で代用することで対処する。しかし、これも結局は「時間との闘い」ではありませんか?システム仕様を詳しく知っているメンバーや Si ベンダーも同じだけ歳を重ねます。すなわちソフトウエア資産の「継承」とは時間との戦いになります。
早い判断と着手は、早く引き継げるでしょう。先延ばしするほど、コストも期間も増えるものです。対象となるソフトウエア資産に「使い続ける価値あり」が続く限り、時間との闘いをせねばなりません。ましてや障害発生後は、暗闇の中での「時間との闘い」を覚悟しないとなりません。
・エンジニアの矜持
もし、あなたがエンジニアでソフトウエア開発経験があったならば、自身が開発したシステムの扱いが従前の環境のまま使われている状況を目の当りにしたら…?これまでの経緯や当時の状況を知りもしないエンジニアが、「ああ…あのシステム…クラウドじゃないんでしょ?ダメだと思いますよ。」と無頓着に口に出したら、そのエンジニアにあなたは信頼感が抱きますか?あなたは、そのエンジニアになんて言いますか?それとも沈黙?
・そもそもの経済価値
「マイグレーションしても、そもそも付加価値がアップするわけじゃ無いですよね?」とのセリフを聞いたことがありませんか?では、10 年以上使い続けるシステム、減価償却などとっくに終わっているシステム…それでも尚、使い続ける経済価値は、どれほど高価なものなのでしょう!開発当時に掛かった総コスト…その時の自社の売上高は?そして、そのコストは売上高の何%?それを現在の売上高で計算すれば?それだけの価値を生んでいます。その数%でもマイグレーションに投資すれば、その価値がさらに持続するのです。
別に売上高だけに固執しなくても関わる人件費累計でもシステムの導入前とその後、そして現在…どれだけのコストを抑えて新たな価値を生みだせる「生産性のある余剰」を創出してきたのか?既存のシステムを「使い続ける価値あり」と判断したならば、さらにその価値を維持・向上させるために投資を行うことはビジネス社会においては、至極、真っ当なことなのです。だからマイグレーションが必要なのです。