異世界に転生したらPowerBuilderが、最強だった…?

カシャカシャ、パチパチ…「あの~う、た・か・し…さん…」。「ZZZ…ッう~ん、だれ?なに?夢…ねてる?」「!!あっ寝てた…?イカん!」タカシは、ガバっと飛び起きて声のする方を向いたが、その姿に驚愕し言葉すら出ない…。尖った両耳をピクピクさせながら、両手でスマホ?らしきモノを携えて不思議そうに首を傾げる綺麗な女性が立っていた。周囲は、無言だがキーボードを忙しなく叩く…なにか?懐かしい音だけが耳に入るが、目の前の女性の姿に脳のすべてが乗っ取られていた。その女性は、笑みを浮かべて「も~う、どうしたんですか?たかしさん…朝からずっと寝てましたよ。けど、どうしても確認したくて…ちょっといいですか?」と顔と近づけて話しかけてきた。「ヘッ?ハっ…?な、なに?だれ?」イスは背中の机に当たって後ずさりも出来ず、顎を引いてようやく絞り出すように言葉が出た。

その様子にさすがに彼女も、少し驚いた感じで慌てて一歩下がった、と同時に左側の方から少し怒り気味の冷めた男性の強い口調で、「ヒロリン…まだ、たかしは寝惚けてんだよ。後にしな!…ッたく。」タカシは、硬くなっている首をギリギリと左側の方に向けて、その男性の後ろ姿らしき光景を見て「エグッ、ング…」と顎が外れるくらい開口した。(黒い羽根?黒い尖った尻尾?人間じゃない…まるで悪魔??悪魔…殺される?これは夢?違う…落ち着け!考えろ!何があった?俺はどうした?)タカシは、渾身の力を歯に込めて今度は歯を食いしばりつつ、目をギュっと閉じて無言で右手をヒロリンの方に向けて制するように開いた後、クルっと回って机の上で腕を組んで寝る姿勢に戻り考えた。(思い出せ!ここは、どこだ?昨日、俺はなにをしていた?焦るな!彼らはだれだ…?日本語?考えろ!)これまでの人生で経験したことのない集中力で記憶を辿ろうとした。

「アクーツクさん…けど、私、1週間前にPowerBuilderでの開発始めたばっかで…それはいいんですけどお…この画面作ったのをテストしたんですけど、ちゃんと値が出なくって…焦っちゃって…たかしさん朝、来たときからずっと寝ているし…」

「そりゃ大変だな…。けど、悪いが俺も今は手を離せない…ヒロリン…ソースコードだけでもダンプしな!」との会話が聞こえた。(PowerBuilder…??エっ PowerBuilder…!!)タカシは、その言葉を耳にした途端、心臓の鼓動が瞬く間に正常に戻り、猛烈な勢いで頭の中の隅々まで情報の洪水のような何か?が行き渡る感覚と断片的ではあるが、過去の光景を思い出せて今の現実に起きている状況のギャップの整理…パズルのピースが次々と所定の場所に埋まっていく快感にも似た感覚を得た。(そうだ!俺は1週間前に、異世界に転生したんだ!そして前世のことも断片的に覚えている。しかも、前世のPowerBuilderのことだけは、すべて覚えている。

徹夜続きで、PowerBuilderでシステムを開発していて夜中に意識を失って目を覚ましたら、この世界に転生していたんだ。そう!この1週間、この世界のPowerBuilderは、最強じゃないか?と毎日のように発見し、ワクワク感が止まらず、もう居ても立ってもいられず今日も朝早くからこの開発ブースに来て、前世の場面を思い出しながら…寝ちゃったんだ。その時に、一時的に現実の記憶が吹っ飛んだんだな。リスタートみたいなものか…?デーモン族のアクーツクにエルフ族の新人ヒロリン…わかるぞ!後、もう一人…キーボードの音が、左の方から聞こえる…ドワーフ族のヤマチュウさんだな。職人気質の頑固親父だ!そして…)タカシは、安堵とも自信ともわからぬ笑みを口元に浮かべ「ごめんごめん、ヒロリン…寝惚けてて、まだ本調子じゃないけど、ときどきあるのか?わからないけど記憶喪失みたいな感じになっちゃった」と愛想笑いで頭を掻きながらおもむろに彼女の方に向き直して謝った。ヒロリンは、タカシを見向きもせず無言で少し口を膨らませてPadのようなものを確認したら、ツカツカと…力強く足早に来て、今度は少し見下げるように立ったまま「ハイ…これ!ソースコードのダンプ!」とそのPadとスマホ画面の両方をタカシに突き出した。

タカシは、上目遣いでヒロリンを見ながら、出されたPadの画面に目をやりながら表示されるソースコードを読めているか?という速さで最後までスクロールした。と…同時に、「ヒロリン…今のままだと、このケースで誤った値がDBに登録されてしまう・・・。原因は、このオブジェクトの関数がマイナス値の入力を考慮していないからだよ!」と諭すように告げた。

「…!!」ヒロリンは、パっと和やかな表情に戻り、「アっそうか!いっけねー!わかった!さっすがあ…たかしさん♬サンキュー♪」と無造作に2台の端末をタカシから奪い取り、今度はスキップで自分の席に戻った。

そう…タカシは、この世界に転生したときに一つのチート能力を獲得していた。 「ソースコードを脳内に取り込んでイメージ化、そのまま脳内でシステムをコンパイル&実行し、デバッグやテストが可能」という、信じられない能力を身につけていた。前世の最期のときの願いが実現したのかもしれない。

それだけではない…この世界のPowerBuilderが、違うのだ!モバイル端末の開発もどういう構造か?は、まだ究明できていないが、OS問わず当たり前のように開発できる。この開発ブースに来たときに、職人ヤマチュウさんに素直にこの世界のPowerBuilderのことで気になる点をちょこちょこ聞いていた。不愛想だが、PowerBuilderについてこの世界では当たり前の機能でも「チっ」と言いながら丁寧にすべての質問に答えてくれた。それを聞くたびに、最初は驚きもあったが、今では嬉しさと誇らしさしかない。

  • 「画面遷移図の作成」…どの画面からどの画面が開かれて・・・といったそれぞれの画面の関連性をダイアグラムで表示する機能
  • 「テストの自動化」…前世でもサードパーティ製品はあるにあったが、ここではフルコンポだ
  • 「自動補完(オートコンプリート)の拡張」がVisual Studioよりも簡単にサクサク候補がでる
  • 「定義へのジャンプ」…いやあ、これもVisual Studioでは至極当然だが、こっちの方が早ええなあ
  • 「コード入力の最速化」…AI搭載で、少し入力するだけでこれまでの分析からコードサンプル自動生成

…まだまだあるようだが、これだけでも開発生産性がさらに上がることが約束されているようなものだ。

「おう!タカシの旦那…今日の俺のやるべきトコは終わったから帰るぜ!」まだ夕方にもなっていない。 「ハ~イ、お疲れ様でした♪(さすが職人芸だな…フルに機能を活用したな…また教えてもらおう)」

この世界では、1年ほど前に近くの惑星の爆発により発生したガンマ線バーストの影響で世界的なグローバルネット環境に不具合が多発し、今後十数年はシステム全般にネットとオンプレミスのハイブリット活用で対応することが義務付けられている。タカシは、「そうだ…俺は、この異世界に転生してもPowerBuilderを最強のIDEにしたい。それが俺の使命だ!」と力強く呟いてコンピュータに向かいキーボードを叩き始めた。

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