異世界に転生したらPowerBuilderが、最強だった…？

その女性は、笑みを浮かべて「も～、どうしたんですか？タカシさん…朝からずっと寝てましたよ。けど、どうしても確認したくて…ちょっといいですか？」と顔と近づけて話しかけてきた。
「ヘッ？な、なに？だれ？」イスは背中の机に当たって後ずさりも出来ず、顎を引いてようやく絞り出すように言葉が出た。

その様子にさすがに彼女も、少し驚いた感じで慌てて一歩下がった、と同時に左側の方から「ヒロリン…まだ、タカシは寝惚けてんだよ。後にしな！…ッたく。」と少し怒り気味の冷めた男性の声がした。タカシは、硬くなっている首をギギギと左側の方に向けて、男性の後ろ姿を見て「エッ…」と顎が外れるくらい開口した。
（黒い羽根…尖った尻尾？人間じゃない、まるで悪魔？！）
殺される、これは夢？！…いや落ち着け、考えろ！何があった？タカシは、渾身の力で歯を食いしばりつつ、目をギュっと閉じて無言で右手をヒロリンの方に向けて制するように開いたのち、クルっと回って机の上で腕を組んで寝る姿勢に戻って考えだした。
（思い出せ！ここは、どこだ？昨日、俺はなにをしていた？焦るな、彼らはだれだ…？考えろ！）これまでの人生で経験したことのない集中力で記憶を辿ろうとした。

「アクーツクさん…私 １ 週間前に PowerBuilder での開発始めたばっかで…それはいいんですけどお…この画面作ったのをテストしたんですけど、ちゃんと値が出なくて焦っちゃって…タカシさん今朝来たときからずっと寝ているし…」

（そうだ！俺は１週間前に、異世界に転生したんだ！そして前世のことも断片的に覚えている。しかも、前世の PowerBuilder のことだけは、すべて覚えている。）

徹夜続きで、 PowerBuilder でシステムを開発していた夜に意識を失って目を覚ましたら、この世界に転生していたんだ。そう、この１週間、この世界の PowerBuilder は最強じゃないか？と毎日のように発見があってワクワクが止まらず、居ても立ってもいられずに今日も朝早くからこの開発ブースに来た。それで前世の場面を思い出しながら…寝ちゃったんだ。その時に、一時的に記憶が吹っ飛んだんだな。リスタートみたいなものかな？
この人たち…デーモン族のアクーツクに、エルフ族の新人ヒロリンだ…わかるぞ！あとは、もう一人…左の方から聞こえるキーボードの音…ドワーフ族のヤマチュウさんだな。職人気質の頑固親父だ！そして…
タカシは、安堵とも自信ともわからぬ笑みを口元に浮かべ「ごめんごめん、ヒロリン…寝惚けてて。まだ本調子じゃないのか、記憶喪失みたいな感じになっちゃったよ。」と愛想笑いで頭を掻きながらおもむろに彼女の方に向き直して謝った。ヒロリンは、タカシを見向きもせず無言で少し口を膨らませて Pad のようなものを確認したら、ツカツカと…力強く足早に来て、今度は少し見下げるように立ったまま「ハイ…これ！ちょっと長いコードだけど、この処理で値を取得してるよ！」とその Pad とスマホ画面の両方をタカシに突き出した。

タカシは、上目遣いでヒロリンを見ながら、出された Pad の画面に表示されるソースコードを、読めているか？というほどの速さでサッと下までスクロールした。
「ヒロリン…今のままだと、このケースで誤った値が DB に登録されてしまうよ・・・。原因は、このオブジェクトの関数がマイナス値の入力を考慮していないからだよ！」と諭すように告げた。

「…!!」ヒロリンは、パっと和やかな表情に戻り、「あっそうか！いっけない～わかった！さっすがタカシさんっサンキュー♪」と無造作に端末をタカシから奪い取って、スキップで自分の席に戻っていった。

そう…タカシは、この世界に転生したときに一つのチート能力を獲得していた。
「ソースコードを脳内に取り込んでイメージ化、そのまま脳内でシステムをコンパイル＆実行し、デバッグやテストが可能」という、信じられない能力を身につけていた。前世の最期のときの願いが実現したのかもしれない。

…まだまだあるようだが、これだけでも開発生産性がさらに上がることが約束されているようなものだ。

「おう！タカシの旦那…今日の俺のやるべきトコは終わったから帰るぜ！」まだ夕方にもなっていない。 「はい、お疲れ様でした！（さすが職人芸だな…フルに機能を活用している…また教えてもらおう）」

（ Vol.2 に続く…）