異世界に転生したらPowerBuilderが、最強だった…?【番外編】アクーツクのひとりごと

転生番外編サムネイル

少し窓を開けて春のそよ風に花の香りが微かに匂う朝のオフィスで、アクーツクは自席に戻って「フッ」とため息をついた。
タカシや他のメンバーは、客先やそれぞれの用事で出かけている。ゆえに今朝、開発センターにいるのは彼一人だけだった。珈琲好きの彼の日課は、自分のために自分で買った豆を挽いて自分でお気に入りのカップに注ぎ、ゆるりと味わう…この時間が重要なのだ。
悪魔族の彼は、物静かで冷静沈着な佇まいを崩さない。タカシや他のメンバーと違い、あまり感情に流されることが無いように見える。が…心の中での「ひとりごと」が目一杯多いのが、彼の特徴である…さすがにソバカスは無いのだが。

アクーツクは、昨日のチェリコとのやりとりを思い出してフ~ッとため息をついた。
チェリコが、すまなそうな感じで…トコトコと「アクーツクさん、あの…ちょっと教えていただきたいことがあるんですけど…」と尋ねに来た。
「いいよ、なんだろう?」アクーツクは手を止めて彼女の方に向いた。
「あの…データウィンドウで更新するときにエラーになるので調査しようと思ってるんですが、手掛かりが全くつかめずで…何から調べれば…?」と小さな声でチェリコが言った。

(フム…データウィンドウでエラーが発生する要因はいくつかある…。
大まかには表示されるエラーメッセージでわかると思うんだが…相談しに来たってことは、メッセージではすぐに判別できないエラーってことか?)とブツブツと聞き取れないほどの声でひとりごとを呟く。
「まずはデータウィンドウからデータベースに発行される SQL を調べてみようか?」とアクーツクは自分のPCモニターに向き直る。
チェリコは、パっと明るい表情になり「ハイ!」と後ろに立ってモニターを覗き込む。
(データウィンドウには数多くのイベントが定義されているが、このイベントに処理を書くことで実際に発行された SQL を確認することができる。)

アクーツクに質問するチェリコ

マウスを操作しながら「まずはマニュアルで DataWindow コントロールのページを開いてみようか。イベントの一覧を見ていくと…アッあった。この SQLPreview イベントというやつだ。ではこの SQLPreview のページを開いてみよう…」
「ええっと…これだ!」チェリコがなにか納得することを発見したようだ。

「わかったかな…?更新のときのエラーで判別が難しい時は、まず SQL を調べること。それにはまずマニュアルをしっかりと活用する…そうすると自ずとスキルアップするんだ。」
(不明点をすぐに聞いてくれるのはありがたい。悩み続けて時間を浪費することに比べりゃ優秀だ。しかし、自分でも解決できるようにならなきゃ一人前には程遠いな。
けど、まあ大丈夫だろう…フフン♪)と心の中で呟いて、振り返り彼女に伝えた。
安堵していたチェリコの表情が、一瞬でシュンとした表情に変わり「ハイ…そうですね。けど…マニュアルって小難しいことがごちゃごちゃ書いてあって正直読みにくi…アッごめんなさい!」と姿勢を正した。
「まぁ、確かにマニュアルってもんは親切な文体とは言えないから読みにくいってのはわかる。が… PowerBuilder を理解するためには『必須』なんだよな。」と話した。
チェリコは「はい…お時間取らせちゃって、すみませんでした」とペコリとお辞儀をし、自分の席へそそくさと戻っていったのだった。
アクーツクは、昨日のその時のことを思い出しながら「…少し説教じみた言い方だっただろうか?」とひとりごとを言った。
そしてまた、珈琲を飲みながら、ブツブツとまるで呪文を唱えるかのようにひとりごとが続いたのだった。

午後になって、マーリンとチェリコがお客様のところから帰ってきた。

二人共、なにか浮かない表情で荷物を置くとお互いに目配せしながら、静かにアクーツクのところにやって来た。

「アクーツクさん、ちょっとお客さんとこ二人で行って一応、今日やるべき作業は出来たんですけどぉ…時間があったんで実行モジュールをクライアントに配布しようとしたんですけど、どのランタイムを選ばなきゃいけないのかよくわかんなくてですね…。……で、もうやらずに帰ってきちゃいました!!!」と報告してきた。

彼は思わずガクっとうな垂れて(…ったく、基礎の基礎だぞ?…と言っても、二人共、まだ PowerBuilder がインストールされていない端末への配布するのは初めてか…仕方ないか)二人の顔を見た。

頭を悩ませるアクーツク

「いいか…?まずランタイムには大きく分けて 2 種類がある。
PowerBuilder アプリケーションの実行に絶対必要なコアランタイム群と、アプリに実装された機能ごとに必要となるランタイムだ。」と自分の PC モニターに向き直る。
「マニュアルには、どこに書いてあるかというとー…ええっと、ここだ。それぞれのランタイムごとに、何のためのファイルか説明されている。」とマウス操作しながら、該当するところを指し示す。
二人は、モニターの内容を読みながら、「あ~なるほどなるほど…ここにあるんだ!チェリコ…私たち知らなかったよねぇ?」とマーリンがチェリコにさも当然と同意を求めた。
チェリコは、アクーツクをチラッと見て「そ、そーだねぇ…私もわかんなかったなあ…っていうか?書いてあったんだ…」と頬をピクピクさせてオドオドしながら返事した。

「今日やるべきことはちゃんとやりましたし、お客様のところでマニュアルを時間かけて見るにも迷惑だろうし…だから帰ってきたんだよね?チェリコ」とマーリンはチェリコを見ながら言った。
「そ、そうだね…し、仕方なかったね今回は…ハハハ…;;」と昨日のアクーツクとチェリコのやりとりを知らないマーリンに思わず同意した。
アクーツクは、二人の会話に再びガクっとうな垂れてから顔を二人の方に向き直る。
「あのな…マニュアルを読むことはソースコードを読むのと似ている。わからないうちは一行一行を理解しながら読む必要があるが、慣れてくれば感覚的に『ポイント』を見つけ出すことができるようになるんだ。
それには、マニュアルのクセを把握するのがコツなんだけど…、まあそこは、マニュアルを開く回数を増やして、何が、どのように書いてあるかを理解していかなきゃならないんだ。
どんな種族だって、長い時間を共にしているうちに相手を理解していくだろ?何事も一朝一夕にはいかないもんだ。普段からしっかりマニュアルに触れてたら、配布もできたんじゃない?」
と、ある意味、朝の呪文のようなひとりごとをそのまま一気に口に出して伝えた格好だ。

けれどマーリンも負けていない。
「私たちもマニュアルの重要性は、わかっているつもりです。けど、1ページから丁寧に、何回かに分けて時間かけて最後まで読む必要って無くないですか?何回読んでも、実際にその事象の経験量がない場合は『ポイント』って言われても、時間もないし…」と口を尖らせる。
チェリコは、マーリンをフォローするように「そ、そう…だよね、『ポイント』掴める経験数が必要なのかなあ…?けど、時間も限られているし、私たちは、生成 AI …じゃなくて、歩く AI 的存在のアクーツクさんに聞いた方が早いし、そこから『ポイント』らしき感覚も出来るかなぁ…って尊敬してるから頼っちゃうんだよね」とアクーツクにヨイショしながら仲裁的な発言をした。
「そうだよね♬アクーツクさんは、生きている AI みたいに何を聞いてもすぐわかるし…%&$%#…!!あ!!ひょっとしたら??イケるかも…」とチェリコの発言に乗っかりヨイショしながら切り抜けようとする気持ちアリアリの言動が、ピタリと途中で止まったかと思うと、ひとりごとに変わった。

キラン‼と瞳が光輝きだしたマーリンがチェリコの右手首をギュッと掴む。
「アクーツクさん、報告は以上です!いろいろと教えて下さってありがとうございましたぁ!」と深くお辞儀をしながら一気に喋った。

手首をつかまれたチェリコは、急に何が起こったのか?理解が追い付かない様だが「あ、ありがとうございました。お時間を取らせてすみませんでした。」と頭を下げ、マーリンの強い力に引っ張られる形で二人は猛然と自分たちの席の方になだれこんだ。

さすがに冷静なアクーツクも「?なんか変なことオレ言った?わからん…マニュアルの重要性を伝えただけだが…」と暫し呆然としていた。
ブツブツとひとりごとを呟きながら、やがて何事もなかったように自身の PC モニターの方に向き直った。 席に戻った二人は近くのミーティングテーブルに移り、ノート PC を持ったマーリンが不安顔のチェリコに画面を見せながら熱く語っている。

なにかを話す二人

最初は戸惑いを隠せないチェリコも、マーリンが語る内容にハッとした顔をするとパア~ッと表情が明るくなり、お互い肩や手を叩きあいながらしばらく会話が弾んでいた。それからしばらく二人は、必死にマニュアルを食い入るように見ながら何かをする日々が続いた。アクーツクは、そんな姿を見ながら不安な気持ちも多少はあったものの、理解してくれたんだと納得することにした。

この件から3週間ほど経ったある日、タカシがアクーツクのところにやって来た。
「アクーツク、悪い!あのさ… PDF Builder 機能で『 PDF ファイルの結合』を試そうと思うんだけど、どのオブジェクトを使ったら良かったのかド忘れしちゃって…ハハハ教えてくんない?」と頭を掻きながら軽く尋ねた。
「そうだな… PDF Builder 機能は複数のオブジェクトを使う必要があるから…っと」とアクーツクは PC モニターに向かうと「マニュアルでは…っと?」と操作していたら、すぐ後ろに居るはずのタカシの気配がない。
アレ?…と後ろを振り返ったら、タカシは少し離れた後方のマーリンとチェリコが並んでいるところに移動して、なにやら腕組みしながら話している。
「ヘ~すごいなあ…え?二人で?そうなの~イヤ大したもんだ。生成 AI で『ポイント』抽出したんだぁ…だから、マニュアルの該当の場所に飛ぶんだ。スゲ~!」
アクーツクの視線に気づくと、タカシは笑いながら戻って来た。
「あ?アクーツク、ごめんごめん、さっきの件はこっちで片付いたからいいや!サンプルコードまで今、二人が説明してくれてんだよ~助かる~♬」
すぐ後に、マーリンとチェリコが二人でニンマリとアクーツクを見ながらサムズアップすると、また3人で楽しそうにワイワイしている。

作り笑顔っぽい表情でアクーツクは、その光景をしばらく固まったように見ていたが、やがて黙って自分の PC のモニターのマニュアルページをそっと閉じた。そして呟く。

「ま…なんにせよ、マニュアルが有効活用されているようで良かった。よかったの…かな」

まだ温かいコーヒーカップを手に取りグビリ…と一口飲んでから

「ま、部下が成長することは、嬉しいもんだな…フム…」とひとりごとを言う。
「けど、質問が減るのは、存外に…イヤ、寂しいものだ」と静かに呟いてカップを置くのであった。

たそがれるアクーツク

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