異世界に転生したらPowerBuilderが、最強だった…?Vol.7

この世界の季節は、今は初秋…。つい先週までは暑かったが、朝夕の暑さが少し和らいだし青空が少し高くなった感覚がそう感じさせるのかもしれない。
(過ごしやすくなったな…)
タカシは、早朝のオフィスに軽やかに向かっている。今日は、ねこぴとの毎月 1 回の定期通信の日でもある。
アイツもなんだかんだ忙しそうにしている割には、ここんとこ毎回雑談が多いけど…大丈夫なのかな?と考えつつ、オフィスのエレベーターに乗った。
「タカシ!元気かにゃ?」ねこぴのいつもの挨拶から始まる。
(いつだったか… PowerServer 化の件で憤ってたけど、最近は順調に PowerServer 化するお客様も増えてるって言ってたっけ…なによりだ)
「おう!こっちは俺も含めてみんな元気だよ!今日のテーマはなに?」と少し元気よく尋ねる。
ニヤリとねこぴが笑った。「タカシ… PowerBuilder は、ローコード開発ツールなのかにゃ?」
(なんだ急に…?う~んなんかヒネリが必要なのか…?)
「そりゃあ、その部類の IDE だろう。だって PowerBuilder さえあれば、DB アクセスも帳票作成のようなアウトプットアプリも全部これで開発できるし SQL も自動生成できるし…他の言語から比べれば少ないコード作成時間でプログラム開発できるからローコード開発ツールだろう」とタカシはすかさず返した。
「ほうほう…なるほどにゃ…」とねこぴは、タカシの話をメモしているようだ。
「なんで、そんなこと聞くんだ?」と思わず聞き返す。
「今、こっちの世界では…『ローコード開発ツール+生成 AI』という謳い文句がすごく流行っているにゃ!ローコード開発ツールの弱点だったカスタマイズ性が大幅向上とか、Chatbot でアプリを自動生成とか…まだまだ詳しい調査は出来ていないけどにゃ。そこで、PowerBuilder も生成 AI 活用の計画は?とか聞かれたらどうしたもんかと不安なんだにゃ」とねこぴが一気に言い放った。
「……」
(驚いた。元の世界は、ここ数か月でそんな状況になっているのか?う~ん正直、なんてねこぴに返せばいいのか?わからないなあ…)とタカシは焦った表情で沈黙した。
「まあ、何言ってるかわからないよにゃ。自分でもなんだか、なんだにゃ…」とねこぴは、素直にしょげた。
「アッごめん黙ったままで…でも違うんだ。なんて言ったらいいかわからなくて…」

(ねこぴの言いたいことは、多分わかる…けど、自分が説明することが、果たして元の世界でも的を射ているのか?良くわからないんだよなあ)と頭を掻きながらもねこぴに言った。
「ねこぴさあ… RAD( Rapid Application Development )ツールって聞いたことある?」とタカシは尋ねた。
ねこぴは「…?」とキョトンとしている。
タカシは少し微笑んで「じゃさあ… 4GL( fourth-generation programming language )って聞いたことは?」と続けた。
ねこぴはやはりわからないようだ。
「そうだよな、ごめんごめん…。確か 30 年以上前かな? PowerBuilder が誕生したときの製品の位置づけが、RAD ツールであり、4GL とも言われたんだよ。どちらも良い意味でね。
つまり、本格的なオブジェクト指向で高生産性を誇る開発言語(ツール)ということでね。
Python って言語は知っているよね?この言語も誕生は PowerBuilder と同じ 1991 年だよ。Java がそちらでは一般的なのかもしれないけど、誕生は確か 1996 年頃だったかな?
でね… Python も Java も当時は第 3 世代言語ってポジションだったんだ。
当時 PowerBuilder は、この 2 つの言語よりも進んでいた第 4 世代言語だったと考えていい。つまり、アプリケーションの使用者自らが開発できるように設計されたツールだったんだ。
そしてこの時、第 2 世代言語と言われる COBOL とか FORTRAN の技術者が、こぞって PowerBuilder を使い始めたってことさ。それが、今のシステム資産の元々の開発者であったとも言えるかなあ…」とねこぴにやさしく教えた。
ねこぴは、真剣な表情で「フムフムなるほどにゃ…」と物凄い速度でなにかにメモしている様子。
「それで、タカシは、わいに何を伝えようとしているにゃ?」と当然の質問が返ってきた。
「だよね(笑)。ローコード・ノーコード開発ツールは確かに簡単な業務システムや自社内に高いスキルのエンジニアが不在でも、相応のシステム開発ができるという点では便利だよね。けどさあ…結局、そればかりを追うと逆にカスタマイズ性の弱さが露呈した。だからそれを補う意味で、生成 AI の活用って話だろ?
ねこぴ…よく考えてみてよ。PowerBuilder は、誕生当初から RAD ツール・4GL と言われ、30 年以上経った今なおローコード開発ツールの分類にいるわけだ。つまり、今でも高生産性を誇るポジションにいて、その上、スクラッチ開発ができるツールなのに、生成 AI を無理矢理搭載する必要ってある…?」とタカシが言った。
「う~む、確かににゃ…。けど、実際にこっちでは、そうしたツールの方が人気があるって言うかにゃ… PowerBuilder のお客様から言われたらにゃあ…」とねこぴがブツブツ呟く。
「ねこぴ…生成 AI は、こちらでもマニュアル検索含めてウチのメンバーも活用しているし、お客様でも個々の関数やクラスの動作検証など単体テストの支援に使っていることもあるよ。おそらく要件定義・設計・開発・テスト・運用のどの分野でも生成 AI の活用は、もっと進んでいくよね。」
そんなタカシの言葉を聞いたねこぴは目をパチクリとさせると「にゃんと!タカシ、ここ数か月そんな話を 1 回もしてなかったにゃ!ホントかにゃ?」と驚いた。
「ああ…ごめんごめん。え~っと」(まあ、ねこぴが驚くのも無理ないよな…雑談ばっかだったし、マニュアル検索での活用もそう言えば話していなかったからなあ…)と宥めるように返した。

「おそらくだけど、そっちにある生成 AI システム群は、もうインターネット上にある全世界の情報は全部学習しているはずだと思う。つまり、既存の情報もこれから発生する情報も、そう多く時間が経つ前に学習されるはずだ。
そんなレベルまで進んでいる生成 AI は、IT 分野のシステム開発のプロセスにおいて真っ先に活用されるのがソースコードの自動生成だと思う。特に、Java や Python …オープンソースに分類される言語が一番早いかな?おそらくアチコチでもう実施してるはずだ。
でも、この行為には【①実際のソースコードの品質】、【②知財としての扱い】そして【③セキュリティの脆弱性】の3つの課題の解決を伴うんだ。
こっちの世界が独特なのかもしれないけど、わかりやすく言えば、AI 活用において『労働補完型利用』は OK だけど『労働置換型利用』は WAIT(ほぼ NG )というルールが現在あるんだよ。多種族が共存しているからだし、人間も含めて社会全体のインフラが二足歩行の生き物を前提に作られていることは壊さないんだ。」
(ねこぴは、心のどこかで PowerBuilder 開発者すら不要になる…そんなことを恐れているはず。)
そう考えたタカシは、あえてこちらの世界のことも参考に伝えてみる。
「なら PowerBuilder 開発者は、大丈夫ってことにゃのかにゃ?」おそるおそるねこぴが訊いてきた。
「そうだね…。あくまで開発者を支援する領域が中心だってことだ。AI が開発者の置き換えになることは想定されていない。
だってまずさあ、ネット上で PowerBuilder …しかも Power Script のソースコードってどんだけ転がってる?俺、マジで苦労したんだぜ!」(だから…はあるけど、敢えて元気づけないとね)タカシは笑った。
「ウッ…確かに。でも逆に言えばそれだけ認知されてないのかも…」と複雑な表情でねこぴが呟く。
「ハハハ…安心しなよねこぴ。さっき言った 3 つの課題解決あっただろ?全部、解決できる方法はあるんだぜ!」
「おおお!それを教えるにゃあ~!!!」間髪入れずにねこぴがに返してきた。
「まあ、ちょっと工夫しないといけないけどね。あとライセンスコストはよくわからないからそれも要検討だけど…。
プライベート(自社内)開発環境で生成 AI システムを構築して、必要なものは外部ネットワーク上から別の環境に取り入れる。けど、まずはクローズドで始めるんだ。
これでも知財課題は解決!とはならないけど…少なくとも他のプロセスを支援する、テスト自動化は行う、とか、まずは AI 活用を Try&Error でやってみることだ。
生成 AI の特徴を理解しながら、どのプロセスでどんな活用ができるか?は、すべて自前で実践することだ。できれば、その暗黙的ルールとして『労働補完型活用』は OK とか、運用を徹底することから始めることだと思う。」
(AI のみならずテクノロジーの進化への対応は、使う側の姿勢と責任が最重要だと思う。汗を搔かないで、ただ便利だから…という意識だといつか破綻する。必要だから、に醸成する風土と秩序が重要なんだとタカシ自身も考えていた。)
「タカシ、ありがとにゃ!おかげでずいぶん不安が減ったにゃ」とねこぴから安堵の表情が見えた。
が、すぐまた真顔になると「で… PowerBuilder も生成 AI 活用の計画は?って聞かれたら、どう回答すべきかにゃ…?」とねこぴがモニタ画面いっぱいになって問いかけてきた。
タカシはフッと笑みを浮かべる。「ねこぴよ…。そっちでは PowerBuilder 2025 の情報が出ているんじゃないか?それをお客様に PR しているのかい?」
「エ??それは、まだまだこれからだけども…?」とねこぴが戸惑った。
「もしお客様に聞かれたら、きっぱり言うんだ。PowerBuilder での生成 AI 活用は、今はお客様独自で検討してください。
それより PowerBuilder 2025 では IDE 機能の強化、つまり開発者がより PowerBuilder で開発しやすくなるように改良されました。
特に、コーディングに関して【①コード補完】、【②コードの折りたたみ】、【③対応するカッコの強調】、【④変数使用箇所の強調】などの機能が搭載されたので、開発しやすくなっていると思います。コンパイル速度も大幅 UP しました!…ってね」
「なるほどにゃ~!こりゃあ、より一層開発しやすくなるからワックワク…って待つにゃ?」ねこぴが頷きがらも何かに引っ掛かる。
「タカシ…今、言った機能ってこっちの世界の Visual Studio もすでに実装してるにゃ…。ちょい待ち…思い出したにゃ!
しかも Visual Studio は、もう AI でコーディング支援機能があるって話だったようにゃ…??!」
「………。あっ、いっけね☆彡もう時間だ!じゃあねこぴ、そういうことで頼んだぞ~」勢いづくねこぴが叫んだと同時に、タカシはそそくさと回線を切った。
「アーッタカシ、アイツ今誤魔化しやがったにゃ!!!待つにゃアアアアアーーーーッッッ!!!!」
…ねこぴの奮闘は、まだまだ続く。

※タカシのひとりごと… SAP 以前のバージョンと比べて PowerBuilder もここ数年の進歩は早いし、 IDE の起動と動作も軽くなったし、Microsoft の AI は自前だろ…ブツブツ
異世界転生コラムシリーズ
前回までのお話はコチラから!